05話 夢の中から現実へ、恋は深まる

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土曜日の朝、優斗は目覚まし時計を止めると、すぐにスマホを手に取った。結菜からのメッセージがないか確認したかったのだ。しかし、画面には何も表示されていなかった。彼女はまだ起きていないのだろうか。それとも、約束を忘れてしまったのだろうか。優斗は不安になりながら、出かける準備を始めた。

土曜日の待ち合わせに対して、優斗の心は浮き立つ一方で、同時に不安を抱いていた。新型ウィルスが蔓延し続ける厳しい現実においての人との出会いは、デジタル世界とは違った真実味を持つ。その土曜日、優斗は緊張と期待で胸を膨らませ、待ち合わせ場所へと足を運んだ。街はいつものように静かで、感染拡大の影響で皆が活動を控えていた。そんな中、優斗は自身と結菜の出会いが、この灰色の日々に一筋の光を呈するだろうと期待していた。

待ち合わせ場所に優斗が辿り着くと、結菜はすでにその場に姿を現していた。彼女からは微笑みが優斗へと向けられ、彼女の瞳からは不安と期待が混ざった感情が滲んでいた。

その場所が人々の目から隠れた場所であったこと、そしてコロナ禍という非日常が周囲を作り出していたからこそ、その瞬間その場所を共有していたのはあくまで優斗と結菜の二人だけだった。

優斗と結菜、それぞれがそっと互いの左手の薬指へ視線を落とした。そこには通常、結びつきの象徴として輝くはずの指輪が存在する場所。しかし、今その場所を見つめると、そこには何も飾られていない素晴らしい白い素肌だけが広がっていた。それが愛の証に花を咲かせる準備を始めているのだと感じさせる、何も無いことの象徴として。

「こんにちは、優斗くん。実際に会うのは初めてだね。」

優斗も照れくさい笑顔を浮かべながら挨拶した。「こんにちは、結菜さん。確かに初めてですね。」

マスクをつけたため、初対面の緊張感と、同時に一目で分かるお互いの素顔を覗き見たいという好奇心が、優斗と結菜の胸を高鳴らせた。

優斗と結菜は静かな街を歩き進み、目指すはひっそりと佇む小さなカフェであった。ドアを開ける前に置かれていた消毒液で綺麗に手指を拭き取り、ゆっくりと足を店内へと進めた。店内は思いの外静寂が広がり、そこには静まり返った街の雰囲気が色濃く反映されていた。テーブルは適度に間隔を空けて配置され、それぞれの席が秘密を共有するための安全な距離を保っていた。

二人は注文を済ませ、コーヒーカップを手にしながら会話を楽しんだ。街が新型コロナウィルスの影響で静まり返っている一方で、カフェだけははんらりと生活の息吹を漂わせていた。

口をつけることなく手に持ったままのカップ、そして少し気まずい雰囲気となりつつの会話が長い時間続いた。

「のど乾いたね」

と結菜が首を傾げて言い、彼女の言葉が決定的だった。この瞬間、決断が下された。彼は深呼吸をしてからマスクを外し、初めて彼女に素顔を晒した。結菜も同様にマスクを外し、初めて彼に素顔を見せた。そこから新たな物語が始まるのであった。

二人は静まり返った街で会った。初めての対面、初めての会話、そして初めてのコーヒー。それぞれが新鮮で、それぞれが特別だった。

「美味しいね、もっと早く飲んでおけばよかった」と結菜が言った。優斗は頷き、彼女に微笑みを返した。「同感だよ、結菜さん。」

その日の夕方、優斗と結菜はカフェを後にした。彼らの心には新たな思い出と、これからの期待が刻まれていた。それは、新たな始まりだった。彼らは再びマスクをつけ、手を振りながら別れを告げた。

「また会いましょう、優斗くん。」

「うん、また会おう、結菜さん。」

それから彼らはそれぞれの道を歩き始めた。しかし、彼らの心はすでに一つになっていた。それは、新たな物語の始まりだった。そして、土曜日の夕方、街は再び静まり返った。

つづく


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